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元学習院大学非常勤講師 鏡味貴美子さん 後編

舞台に魅せられて

 

元学習院大学 非常勤講師 鏡味貴美子さん

 

歌舞伎から縁があって、狂言のお稽古。48歳で大学に入学、卒業後は大学院に進んで『歌舞伎研究』を専攻。

大学で『日本の伝統芸能』という授業の講師となる。雅楽から能狂言、歌舞伎、落語など日本の伝統芸能で活躍する方々を講師に迎えて、実技や理論を学生に教える授業。その中で、和泉流狂言師の石田幸雄師とであい、素人弟子となる。

今ではご自身も一年に一回狂言の舞台に立っている。

現在は、カルチャーセンターで歌舞伎の講師として活躍され、月に数回歌舞伎を観に行くほどに。

そんな鏡味さんに、歌舞伎や狂言の魅力を語っていただきました。

 

 

● 大学で専門的に歌舞伎を学ぶ

 

ロズリン : 大学生になって、授業はどうでしたか?

 

鏡味 : ずっと「勉強したい」という思いがあったので、とても楽しかったです。毎日家で予習をして、授業を受けて家へ帰ったら、その日のうちに習った勉強を全部ノートに清書しました。それを覚えて、試験の前に見て、また覚える。

もちろんドイツ語の授業も一生懸命やりました。4年間で学ぶことの面白さを実感しましたね。

卒業したらどうしようかと考えたとき、歌舞伎の授業がとても面白かったので、「歌舞伎を専門にやりたい」と思いました。

それで大学院に進んで修士課程を2年で修士号を取り、それから博士課程に進学、3年間で単位を取得して退学しました。

 

 

ロズリン : すごいですね! 9年間も学生生活を送られたんですね。勉強はお好きだったんですね?

 

鏡味 : そうですね。楽しいことをやっているという感じで夢中で勉強していました。

子どもたちが後から言うのには、「勉強とか受験とか進路のこととかお母さんにうるさく言われなくてすんだのがよかった」と。

何しろ私は自分の勉強に忙しくて、子どもの勉強のこととかまったくかまっていられなかったので。

 

ロズリン : 言わなくても、お母さんの姿を見て、自然と「勉強はするものだ」と思ったでしょうね。

 

鏡味 : そうだったらいいですね。私自身、ほんとうに勉強をすることが楽しかったですからね、子どもたちも、私が何か楽しそうにやっているのを見ていたので、勉強がいやなものという意識はなかったような気がします。

 

 

 

● 奥が深い歌舞伎の世界を追求

 

ロズリン : 修士も博士も歌舞伎が専攻ですね。

 

鏡味 : はい、そうです。たとえば、今上演している歌舞伎が作られたのは江戸時代ですが、当時はどんなふうに上演していたのだろうとか、それが時代を経てどんなふうに変わってきたのだろうか、そのようなことをさまざまな資料から探っていきます。

浮世絵ってご存知かと思いますが、浮世絵に歌舞伎を描いたものがあるのでそれを研究したり、国会図書館などで昔の文書を読んだり。

 

ロズリン : 古い資料は読むのも大変でしょうね。

 

鏡味 : そうですね。でも、そうやってわからないことを調べるという作業はすごく面白いんです。

今も週に1回、カルチャーセンターで『歌舞伎を楽しく』というお話をしていますが、生徒さんに必ず言われるのは「資料がすごい」ということ。

今回は何を話そうか、自分だったら何に興味を持つだろうかと考えて、みんなから質問されたらどう答えようかと調べて、きちっと資料を作ります。そういうことがすごく好きなんですよね。

 

ロズリン : 生徒さんにとっても非常にためになりそうですね。

 

鏡味 : そうだったら嬉しいですね。私は歌舞伎を上演している都内の劇場には、毎月かならず歌舞伎を観に行きます。

時には、大阪や京都の劇場にも行っています。それというのも、同じ歌舞伎の演目でも、そして同じ役柄でも、そのときに演じる役者さんによって全然、違ってきますので実際の舞台を観る必要があります。

もちろん、なかにはつまらない時もありますので、ちゃんとチェックして「今月の歌舞伎座はこれとこれは観た方がいい、これはわざわざ観る必要はない」などと皆さんにお話ししたりします(笑)。

生徒さんたちも「先生のそういうお話が聴けるから楽しい」って言ってくれますね。

 

 

 

● 初心者が歌舞伎を楽しむなら

 

ロズリン : それは貴重な講義ですね(笑)。鏡味さんオススメの、初心者が楽しめる歌舞伎って何でしょう?

 

鏡味 : そうですね、たとえば、テレビにも出ている有名な歌舞伎俳優、たとえば市川海老蔵や市川猿之助など好きな役者さんを決めて、その人が出演しているものを観るというのはどうでしょう。

あとは、踊りはきれいですし、言葉も難しくないので、そういうのを観に行くところから始めるとか。

また若い役者さんたちは、自分と同じ年代の人たちが歌舞伎を観に来てくれるにはどうしたらいいかと考えて、漫画を元にした『ONE PIECE』とか、アニメの『ナウシカ』などを歌舞伎にしていますから、そういうものを入り口にするのもいいかもしれません。

そうやっていくつか観てみると「あの役者さんが出ているのが面白かったから、またあの人が出ている難しいものも観てみよう」というふうになるかもしれませんね。

 

ロズリン : 新作歌舞伎も鏡味さんからご覧になって、いいと思いますか?

 

 

鏡味 : 私はやっぱり古い演目が好きなので、新作を観ると「なにこれ?」っていうときもあります(笑)。

「これが歌舞伎と思われたら嫌だな」とか思うんですけど、でも、意外と面白いのもありますよ。

 

ロズリン : 歌舞伎そのものも変わっていくでしょうね。

 

鏡味 : 変わっていくと思います。今、歌舞伎界は現代の名優といわれる二代目中村吉右衛門、十五代目片岡仁左衛門、七代目尾上菊五郎など70歳代の役者さんが中心となっていますが、いずれは演じられなくなりますよね。でも、その次の世代の役者さんたちがいないんです。

十二代目市川團十郎や十八代目中村勘三郎、十代目坂東三津五郎といった、これから中心となり、若い役者たちを指導していくはずだった人たちが早世してしまいました。若い役者さんたちは、これから歌舞伎をどうしたらいいのか悩んでいるところだろうと思います。

また、役者さんたちだけの問題ではなく、古典歌舞伎を面白いと思って見に来る観客層がどれほどいるのかということも問題ですよね。

 

ロズリン : 世代交代が難しそうだと観ていて感じますか?

 

鏡味 : そうですね。歌舞伎の場合は衣装もかつらも重くて、頸椎を痛める役者さんが多いと聞いています。

たとえば、五代目坂東玉三郎さんという女方の役者がいらっしゃいます。

これはテレビのドキュメンタリー番組で見たのですが、玉三郎さんは、芝居が終わると飲みに行ったりしないで、まっすぐに自宅に戻り、体を揉みほぐしたり体のメンテナンスをするなど、役者という仕事にすべてをかけている、とてもストイックな役者さんです。

でも今の若い役者さんたちはそういったプロ意識のある人はどれほどいらっしゃるのでしょう。

もちろん若い役者さんたちでも、体をいたわり、お稽古を一生懸命やっている人たちはたくさんいるとは思います。

私も回数を多く舞台を見ていますので、「この人は本当に一生懸命お稽古しているな」とか「せっかくいい役をもらっているのに惜しいな」などというのは分かります。

 

ロズリン : 違いが分かるんですか?

 

 

鏡味 : 役者さんによって全然違います。

ただ役を演じているだけで心がこもらない人とか、台詞もちゃんと言っているし顔もそんなに悪くないけど、もう一つ演じている役の気持ちが分かっていない人とか、いろいろですね。

 

ロズリン : 毎月観ているからこそ、分かることなんですね。鏡味さんご自身は、今後狂言で演じてみたいものはありますか?

 

鏡味 : この間も演らせていただいた『蚊相撲』は「大名狂言」のひとつですが、大変面白かったのでまた演りたいです。

 

 

ロズリン : 非常に立派でした。素晴らしかったです。エネルギッシュな鏡味さんにぴったりですね。

 

鏡味 : そうですか、嬉しいです。狂言には、その他にも太郎冠者が主人をからかうという演目(写真『柑子』)や、子供に言葉を教えようとするお父さんと子供の面白いやりとりをする演目(写真『いろは』)、山伏の登場するものなど、いろいろ面白いものがたくさんあります。

今年もまた頑張ります。

 

 

 

ロズリン : ぜひ観に行かせてください。本日はありがとうございました。

 

 

【感想】

歌舞伎や狂言の魅力を語る鏡味さんは、とてもイキイキして印象的でした。

私も学生のときから狂言が好きなので興味深く、思わず聞き入ってしまいました。まだ知らないことや、新しいことを積極的に学んでいく、鏡味さんの好奇心に私も刺激を受けました。自分の視野や価値観を広げていくためにも、いつまでも好奇心を持ち続けたいですね。

また機会がありましたら狂言を見に伺います。貴重なお話を聞かせていただきました。

 

 

【鏡味貴美子さんプロフィール】

1941年、東京都生まれ。1993年に学習院大学文学部国文学科卒業後、同大学院に進学、歌舞伎を中心とした近世演劇を専攻し、修士号を取得、博士課程を単位取得満期退学。

専門は近世芸能、日本芸能史。2001〜2014年まで学習院大学の非常勤講師を経て、現在は聖徳大学生涯学習センターにて講師を務める。



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日本で人生の半分以上を暮らし、動物(特にネコ)と自然、最近はゴルフも愛する、心優しきオーストラリア人。
ワインなら何杯でも?いける口です♪

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