Interview

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元学習院大学非常勤講師  鏡味貴美子さん 前編

舞台に魅せられて

 

元学習院大学 非常勤講師 鏡味貴美子さん

 

歌舞伎から縁があって、狂言のお稽古。48歳で大学に入学、卒業後は大学院に進んで『歌舞伎研究』を専攻。

大学で『日本の伝統芸能』という授業の講師となる。雅楽から能狂言、歌舞伎、落語など日本の伝統芸能で活躍する方々を講師に迎えて、実技や理論を学生に教える授業。その中で、和泉流狂言師の石田幸雄師と出会い、素人弟子となる。

今ではご自身も一年に一回狂言の舞台に立っている。

現在は、カルチャーセンターで歌舞伎の講師として活躍され、月に数回歌舞伎を観に行くほどに。

そんな鏡味さんに、歌舞伎や狂言の魅力を語っていただきました。

 

 

● 歌舞伎を教えるなかで出会った狂言

 

ロズリン : 私、狂言大好きでよく観に行くんですよ。

昨年、知人が出るアマチュアの発表会に誘われて、プロ級ほど素晴らしかったので驚いて。出演されていた鏡味さんにぜひお話をお聞きしたいと思いました。

鏡味さんはどんなきっかけで狂言を始められたのでしょう。

 

鏡味 : 歌舞伎を研究していた学習院大学で、『日本の伝統芸能』という授業の非常勤講師となりました。

その授業は、日本の伝統芸能(雅楽から能、狂言、歌舞伎、文楽など)を理論と実技を通して一年間で教えるというものでした。実際に舞台で活躍しているそれぞれの専門の方々を講師としてお招きして、授業の中で実際に演技をしていただき、学生たちは日本の伝統芸能を間近に見ながら学べるのです。

この授業を通して素晴らしい専門の方々と知り合う機会を得た私でしたが、中でも和泉流の狂言師である石田幸雄先生の素晴らしい講義や実技、さらにはそのお人柄にすっかり惹かれるようになり、厚かましくも石田先生に狂言を教えていただきたいとお願いしました。

 

ロズリン : 狂言は言葉が馴染みやすいですよね。

 

鏡味 : そうですね、分かりやすいです。

石田先生のお許しをいただいて素人弟子の一人に加えていただきましたが、お稽古というのは先生から狂言の台詞を教えていただくだけだと思っていました。舞台に出ることになるとはまったく考えていませんでした。

ところが、「うちのお弟子さんたちは素人でも年に1度本物の能舞台を使った発表会がある」と言われました。

まったく予想外でしたが、入会した翌年の秋にもう舞台に出させていただきました。

 

ロズリン : え、早い! その最初の舞台を踏んだときはどうでしたか?

 

鏡味 : 何がなんだか分からなかったですね。でも、うまいとか下手とはではなく、達成感がありました。

第一回目の発表会からすっかり舞台に魅せられてしまいました。

 

 

ロズリン : 一度出ると、また出たくなるということですか?

 

鏡味 : はい。私なんかは年齢的にも、台詞を覚えるのもやっとですし、まして本物の狂言の衣装を着けて舞台で動くわけですから、本当に大変なんですよね。でも、楽しいです。

 

ロズリン : 昨年私が観た『蚊相撲』は、鏡味さんにとって何回目の舞台ですか?

 

鏡味 : 11回目ですね。

 

ロズリン : そうですか。長く続けておられますね。

 

鏡味 : 私、声が大きいんですよ。カルチャーセンターで歌舞伎を教えている生徒さんたちが発表会を観に来てくださるんですが、声が大きい私を上手だと思ってくださって(笑)、「すごく分かりやすくて上手」「先生の声はよく通って聞こえやすい」とほめてくださいます。

ほめていただくと、また舞台に出てみたいな、と。普段の生活の中では、声が大きいことはあまり褒められることではありませんからね。

 

ロズリン : お上手でしたよ。練習は相当されたんですか?

 

鏡味 : はい。お稽古は大変です。石田先生のお稽古はすごく厳しいです。

私はお弟子さんたちの中では年齢が上ですので、先生もご遠慮なさってそんなに怒鳴られるっていうことはないですけど、それでも何度教えていただいても、覚えていなかったりすると、「僕の教えていることを聴いているのか!」って叱られたりします。

先生に教わるお稽古は月に3回ですが、発表会が近くなると、お稽古の回数を増やしてもらったり、一緒に舞台に出る方と先生のお稽古場をお借りして練習したりしています。

 

ロズリン : お一人で練習する時間も多いのですね。

 

鏡味 : 私はもう79歳にもなりますので、ふだんの生活の中では、家の中でも外でも誰かから注意されたり、叱られたりすることって少なくなっていますよね。

それが狂言のお稽古を始めてから、久しぶりに先生から注意されるという貴重な経験をしています。

 

ロズリン : それは刺激的ですね。

 

鏡味 : どちらかっていうと私は他人から注意される前に、頑張っていろいろ勉強していくタイプの人間でした。

48歳で大学に入る前までは、鎌倉彫の教室に通って資格をとったり、通信教育で大学の講義を受けたり、いろいろやっていました。

ところが、実際に大学に通って、18歳の人たちと一緒に講義を受けたり、体育の授業をうけたりしていくなかで、「ああ、こんなに世の中には知らないことがあるんだ」って気付かされました。

 

 

 

● 48歳で大学入学、歌舞伎の研究者の道へ

 

ロズリン : どんなきっかけで、48歳で大学に入られたのですか。

 

鏡味 : 私は父も母も早く亡くなり、高校を出てすぐに公務員として勤めました。

夜間の大学に通ってみたりしてもなかなか続けることができなくて、 “大学を出ていない”というのがずっとコンプレックスでした。

 

ロズリン : なるほど。

 

鏡味 : そんな私に早稲田大学の教授だった兄は常々「生活が落ち着いたら大学に行くことを考えてみたら?」と言ってくれていましたが、47歳で亡くなってしまいました。

ちょうどその年に学習院大学が社会人学生を募集し始めたので、文学部の国文学科を受けました。

 

 

ロズリン : そもそも国文学科を選ばれたのは、もともと歌舞伎とかそういうものがお好きだったんですか?

 

鏡味 : そうですね。日本舞踊を習っていたこともありますし、亡くなった母が三味線を弾いていたり、母がまだ元気だったころ何回か歌舞伎に連れて行ってもらったことがあったりしましたので、日本の伝統芸能そのものに興味がありました。

 

ロズリン : 鏡味さんが48歳で大学に入られるとき、ご家族はどんな反応でしたか。

 

鏡味 : 大学の入学試験を受けることは誰にも言っていなくて、受かってから夫に「大学に行ってもいいかな?」って話しましたら、「子どものことと家のことをちゃんとやるならばいい」と。

少しは褒めてくれるのを期待していましたが、まあ昔ながらの日本の男性ですから、そんな反応でしたね。

 

ロズリン : 鏡味さんが大学に入られたとき、お子さんはおいくつだったんですか?

 

鏡味 : 上の娘が中学生で、下の男の子はまだ小学生でした。

 

ロズリン : まだ手がかかる年齢ですよね。大学の入学試験も簡単ではなかったでしょう?

 

鏡味 : 試験は、論文と、国語が古文と現代文、あとは外国語が選択で私はドイツ語にしました。

 

ロズリン : なぜドイツ語?

 

 

鏡味 : 大学に入る前、夫の仕事でドイツに3年間行っていました。

ドイツに行く前には、丁度娘を妊娠中だったのでドイツ語をまったく勉強できませんでした。ドイツで出産してから、ようやくドイツ語を勉強する時間がもてました。成人学級に通ったり、知人のドイツ人女性から個人レッスンを受けたりしました。

私はすごくおしゃべりが好きなんです(笑)。どうしてもドイツ語がしゃべりたくて、まだドイツ語がたどたどしいのに、ドイツ語が話せなくても買い物のできるスーパーマーケットではなく、町の普通のお肉屋さんやパン屋さんなどに行って、「これは何ですか?」「いくらですか?」とおしゃべりをしていました。

 

ロズリン : ドイツはどのあたりに行っていたんですか?

 

鏡味 : フランクフルトです。夫がフランクフルトの事務所に勤めていて、そこから車で30分くらいのクロンベルクという小さな町に住んでいました。日本人はほとんどいないようなところでした。

ドイツ語は全然わからないまま行ったんですが、勉強をしながら、夫の仕事の関係のパーティーに出たり、自宅にドイツ人のお客さんを呼んだり、娘の友達のお母さんとお話をするうちに、だいぶ話せるようになりました。

 

ロズリン : いいですね、素敵です。

 

鏡味 : ドイツ語は文法が複雑で難しいのですが、ドイツ人は日本人にとても親切で、私が話そうとしていることを一生懸命聞いてくれたり、私が間違ったドイツ語を話していると直してくれたりするんです。

3年たって日本へ帰ってきてからも、せっかく話せるようになったドイツ語を忘れてはもったいないと思って、通信教育などを使って独学でドイツ語を勉強していました。

大学では、ドイツ語を勉強するのもいいかなと思いましたが、日本の文化を系統的に勉強して、大好きな歌舞伎などをドイツ語でより深くきちんと説明できるようになったらいいんじゃないかと思いました。

 

 

後編に続きます。

 



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日本で人生の半分以上を暮らし、動物(特にネコ)と自然、最近はゴルフも愛する、心優しきオーストラリア人。
ワインなら何杯でも?いける口です♪

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