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銭湯ペンキ絵師 田中みずきさん 後編

 

現在日本に3人しかいない銭湯ペンキ絵師の田中みずきさん。銭湯の数が減るとともに、銭湯ペンキ絵師の数も激減。今や、70代・80代のベテラン絵師と、若手の田中さんのみが銭湯の壁のペンキ絵を描き続けている。なぜその仕事についたのか。銭湯のペンキ絵はどのように作るのか? 貴重なお話を伺いました。

 

(後編)

 

●銭湯のペンキ絵は銭湯の定休日一日で仕上げる。

 

ロズリン:銭湯の絵は何時間ぐらいで仕上げるんですか?

 

田中:銭湯がお休みの日で仕上げないといけないので、大体10時間ぐらいで終わるようにがんばっています。お休みの日で終わらないと、銭湯の一日の売り上げが減ってしまいますからね。

 

ロズリン:それは忙しいですね。銭湯の絵は富士山が多いですが、それは銭湯のご主人が希望されるのですか?

 

田中:そうですね、約9割の方が富士山を希望されます。だから、いろんな方角のものを描くようにしています。静岡県側から、山梨県側から。また朝日をあびた明るい富士山などバリエーションも考えます。ご主人が好きなことを組み合わせることも多いですね。故郷の風景とか趣味とか。

 

 

ロズリン:残りの1割はどんな感じですか?

 

田中: 銭湯店主の故郷や地元の風景のほか、趣味が反映されることが多いです。ゴルフの好きな方はゴルフ場とか、ペットのわんちゃんとか。桜のようなお花をいれることもあります。本来、銭湯の絵は季節感を出さないものなんですが、基本的にはご希望に沿ったものを描きます。

 

ロズリン:お任せします!といわれて、好きなものを描くことはありますか?

 

田中:それはほぼないです。銭湯の絵は、自分の個性を出しても、自分の表現をする場ではないと思っていますので、お任せしますといわれても、ご主人にお話しを伺いますね。前にどんな絵があったのか、その銭湯は何をモチーフにしているのか、どんな場所なのか。そこに空間があるというのは、何かそこのコンセプトがあるはずなので、建築やその場の歴史などいろいろリサーチしてご提案します。

いずれにしても、ご主人に事前にイメージを見てもらうため、富士山の時も簡単な構図を事前にお見せするようにしてます。

 

ロズリン:それはいいですね。今はどうやってお仕事がきているのですか?

 

田中:私は電話番号をいれたブログを行っているので、そこで見て電話をくださったり、お仕事をした方からの紹介であったり。ありがたいことに、自分で営業をしたことがないんですよ。

 

ロズリン:それはすごい。絵はもともとある絵の上から塗るんですか?修復をすることもあるのですか?

 

田中:場所によって、絵の傷み具合は違いますが、基本的に修復はやらず、直接上から新しい絵を描きます。

 

ロズリン:行ってみたら、ものすごい素晴らしい絵があることもあるでしょうね。

 

田中:あります。そういう時は本当にもったいないですが、撮影して記録を残してから作業します。銭湯のペンキ絵の場合、湿気が多いし、書いてある場所の材質によっては、2,3年で傷むんです。だからしょうがないんですけどね。自分が描いた絵の上に書き直すのはさっさとやりたいけど、昔の良い絵や描かれた方がなくなっていたりすると、ペンキ絵の宿命とはいえ、本当に残念な気持ちです。

 

 

 

ロズリン:実際にどんな風に銭湯で描くのですか。たとえば洋服は?

 

田中:洋服はいつも作業用の長袖のTシャツとワークパンツです。まず足場を組んで、ペンキが付かないように下にはブルーシートをひき、マスキングテープで間を埋め、ペンキのにおいで酔わないように、窓は全開。そして事前に作っておいた構図にそって、今ある絵の上から描いていきます。

 

ロズリン:前の絵があると難しくないですか?

 

田中:いえ。富士山が多いですが、せっかく描き直すのならば違う絵にしたいので、同じ富士山でも、元の絵にあった位置から場所を変える際、前の絵があったほうがやりやすいです。

とにかくキャンバスが大きいので、近くで描いたら、ちょっと離れて全体を見て、の繰り返しです。一日描き続けるのには、ものすごく体力がいります。途中で血糖値が下がって足がつってきたりするので、飴をたべて血糖値をあげて描き上げます。

 

ロズリン:本当に体力がいりそうですね。ペンキを運ぶのも大変じゃないですか?

 

田中:現在は、夫が便利屋をやっていて現場に同行してくれるので、車で荷物を運んで、足場も組んでくれたりと、とても助かっています。

 

 

●旅館のお風呂、地域おこしなど、ペンキ絵のオファーは広がっている。

 

ロズリン:それはいいですね。今、どのぐらいのペースで描いているのですか?

 

田中: 月に4,5件ですね。最近は銭湯以外にペンキ絵を描く仕事のオファーをいただいています。

 

ロズリン:どんなところに描くのですか?

 

田中:東京オリンピックを見据えて、旅館のお風呂に描いたり、個人のお宅での注文などいろいろです。

 

ロズリン:やってみたいことはありますか?

 

田中:はい。実はお子さんたちと、その地域の銭湯の壁画を一緒に描きたいんです。自分の絵がある銭湯に入るのって、すごくいいんじゃないかと。

 

ロズリン:いい考えですね。楽しそう。

 

田中:過去には、子供たちと板の上に描いた絵を飾ったことはあります。銭湯を日常的に使う人は若い世代には減っていますが、広いお風呂に入る気持ちよさが好きで行く方や、ドラマで見て行ってみたいと思う方も増えているんですよ。また日本各地の銭湯で、地域おこしのために、その土地の風景や、昔壁に描いてあった絵をモチーフにしたりと、ペンキ絵があちこちで復活しているんです。銭湯に注目が集まり、行く方が増えれば銭湯文化も続いていくので、いろんな面で良さを伝えていきたいです。

 

ロズリン:田中さんのお仕事の責任も大きいですね(笑)

銭湯ペンキ絵師のやりがいはどんなところにありますか?

 

田中:描き終わって、ご主人が笑顔で、よくなった!と言ってくださったり、銭湯のお客様たちが、入浴しながら「この絵変わったのね」といいながら、その話でもりあがってくださったりするのを見ると、とてもうれしいです。銭湯の絵って、ご主人からお客様まで、銭湯という場所に関わる全てのかたのものなんだと実感しています。

 

 

 

ロズリン:今でも銭湯に行くことはあるんですか?

 

田中:ありますよ。本来銭湯はリラックスしにいくものですが、私の場合、自分の絵がある場所なら、みんなの反応をうかがってしまいますし、他の方の絵があるところだと、「なるほどこうなっているのか」と観察しているので、一人だけ険しい顔をしているかもしれません(笑)

 

ロズリン:それは大変ですね(笑)。これからも日本の銭湯文化を盛り上げて、銭湯ペンキ絵師も更に増えるように、がんばってくださいね。

 

田中:はい。日本特有のこの文化がこれからもずっと続くようがんばります。

 

 

【感想】

日本で3人しかいないという銭湯ペンキ絵師。そのなかで田中さんは最年少でありながらも、ご自身の銭湯ペンキ絵師としての役割をしっかりと認識し、文化の継承者であるという責任感をひしひしと感じました。私も留学生時代から銭湯にはなじみがあったので、通っていた場所に描かれていた絵を思い出しながらお話を聞いていましたが、ペンキ絵は銭湯に関わっている全ての人のものという一言にはとても共感しました!生活のワンシーンとして、いつまでも思い出の中に残るものですね。

これからも挑戦を続けられる田中さんの今後に期待しています!

 

 

<田中みずきさん>

1983年大阪生まれの東京育ち。明治学院大学で美術史を専攻。在学中の2004年に銭湯ペンキ絵師の中島盛夫さんに弟子入りして修行を始め、2013年に独立。同年、便利屋を営む駒村佳和さんと結婚。現場では、駒村さんに足場を組んでもらうなど2人で協力して仕事をする。現在は銭湯をはじめ、個人宅、店舗や介護施設など全国各地のさまざまな場所でペンキ絵を制作。銭湯の魅力を伝える活動にも力を入れている。ブログ「銭湯ペンキ絵師見習い日記」http://mizu111.blog40.fc2.com/blog-entry-649.htmlを逐次更新中。

 



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日本で人生の半分以上を暮らし、動物(特にネコ)と自然、最近はゴルフも愛する、心優しきオーストラリア人。
ワインなら何杯でも?いける口です♪

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