Interview

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慶應大学文学部 准教授 河野 礼子さん 前編

 

元・国立科学博物館の研究員で、4月から慶應大学文学部の自然科学分野で教鞭をとっている河野礼子さん。

歯の化石から探る人類の進化という壮大な研究に取り組んでいます。

 

 

何百万年も前の歯が残っている

 

ロズリン:「人類の進化における歯」が研究テーマと聞きました。

 

河 野 :はい。進化の過程で大臼歯の形やエナメル質の厚さが、なぜどのように変わってきたのかについてです。

化石人類や化石類人猿のことを理解するために、現生のヒトや類人猿についても調べてきました。

 

 人の歯の構造

 

 

ロズリン:化石とは興味深いですね! 歯の化石はいちばん古いものでどのくらいですか。何万年、何百万年?

 

河 野 :歯一本だけなら、かなり古くからありますよ。ヒトの歯ということでは、猿人ですが、600〜700万年前のものが出ていますね。

 

動物の歯にまで範囲を広げれば、それこそ恐竜の時代からも出てきています。また、何をもって歯というかという問題もあって、魚の鱗のようなものから歯に進化したというあたりまで遡れば、5億年以上前にもさかのぼれるかもしれません。

 

■類人猿:人類に近く、特殊化が進んだゴリラやチンパンジーなど。
■猿 人:サルに似た人類で、狩りをし、火を使っていた。

 

 

ロズリン:そんなに古いものでも残っているのですね!

 

河 野:歯や骨は、環境が許せばかなり長く残ります。
ただ日本は残りにくいです。というのも、日本には火山が多く、しかもこの火山灰が酸性なんですが、そういう条件下では溶けてしまうので。

 

縄文時代になると貝塚を作るようになり、貝のカルシウムでその辺りの土壌が中和されるので、残りやすくなります。
弥生時代になると貝塚は作らなくなるのですが、土器のお棺を作りその中に埋葬されて残る場合がありますね。

 

 研究室に並んだ、歯の模型

 

 

 

なりゆきで始めた歯の研究

 

ロズリン:この分野に入るきっかけは何だったのですか。

 

河 野 :なりゆきです(笑)。大学では植物学の研究室に進んだんですが、どうも性に合わない。
そんなとき、隣の研究室の先生が「アルディピテクス」という初期の猿人(のちの人類につながるグループ)の研究をしていて、「ネイチャー」という国際的な総合科学雑誌に論文を出しているのを読んで、面白そうだなとミーハー根性で訪ねて行ったんですね。

 

「何かやることありますか」と聞いたら、「アルディピテクスの歯のエナメル質の研究をしてみないか」と言われて。
それまでの研究で、“人類はエナメル質が厚い”と言われていたので、歯を調べることで、アルディピテクスが人類であることをはっきりと示したいと思っていたそうです。
しかし、なかなか時間がとれずにいたところに私が訪ねて行ったので、これ幸いと(笑)。ほら、すごいなりゆきでしょう。

 

 

 

ロズリン:やってみたら、面白かった?

 

河 野 :はい。エナメル質の厚さを測るために、最初はレーザースキャナーで、次はマイクロCTを使ってと、研究方法を探ることにかなり時間がかかりました。いろいろな方法を試して、工夫して。それが性に合ったみたいです。

 

いまは歯の標本をX線CT装置で丸ごと撮影し、三次元デジタルデータとして分析しています。エナメル質と内側の象牙質の境界面の形は、
外からは見えませんが、この装置でどんな形かわかるように再現することができます。

この手法を身に付けたことで、いろいろな研究チームからお声をかけていただき、研究の幅が広がりました。

 

ロズリン:人類のエナメル質が厚いというのは、何と比べているんですか? 他の動物全般?

 

河 野 :類人猿です。チンパンジーやゴリラなどと比べて、厚いんです。
 

 

歯表面を覆うエナメル質のX線CT装置による三次元画像

 

 

ロズリン:犬や猫、馬などと比べると?

 

河 野 :肉食や草食といった食性が異なる動物とは歯の構造が違うので、比較はむずかしいんです。肉食は、尖った歯に薄いエナメル質がついていて、ハサミのように肉を切る。草食は葉っぱの繊維をすりつぶすために、洗濯板みたいに薄いエナメル質が縦に並んでいます。

 


大昔からあったむし歯

 

ロズリン:ところで、むし歯はどのくらい前からあるんですか。大昔はなかったとか、自然界の動物にはない、と聞きますが。

 

河 野 :昔の人にむし歯が少ない理由は大きく2つあります。
一つは、糖分などむし歯になりやすい食べ物を食べないから。
もう一つは、硬いものを食べていて、歯がすり減るのが早いから。
そうすると、むし歯をつくる菌がついて歯が腐蝕を始めてもそこが自然に削れてしまうんです。

 

いまは食生活が変わり歯がなかなかすり減らないので、いったんむし歯菌に取り憑かれると確実にやられてしまいます。
 

 

ロズリン:発見された中で、いちばん古いむし歯は?

 

河 野 :人類の祖先である猿人の化石にもむし歯が見られるという話もあります。

また中国に200〜30万年前までいた、いまは絶滅している「ギガンドピテクス」という大きな類人猿にもありました。何を食べていたかはわからないんですが、すごい大きな歯を持っています。


 

お話は後編へと続きます、お楽しみに。
 

 



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日本で人生の半分以上を暮らし、動物(特にネコ)と自然、最近はゴルフも愛する、心優しきオーストラリア人。
ワインなら何杯でも?いける口です♪

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